午後六時ころに犬の散歩にでかける。これは毎日の日課で一年中ほとんど変わらない。
この季節の六時は日が沈んで一時間ちかくが経ち、すっかり夜の気配である。
道沿いに家はなく、もちろん街灯などもないが懐中電灯の明かりはつけない。
星明かりの下、草原に沿って延びる暗い里道を歩く。
冷たい風が吹いて、きらめく星を眺める。二匹の犬は吠えることはない。
草原の中から気配を感じ、懐中電灯のスイッチを入れて照らすと、
暗闇の中にいくつもの光の玉が浮かび上がる。
十数頭の鹿が横一列に並んで私を見ている。
毎夜の事なので驚くことはない。
鹿たちも毎夜の事なので逃げることはない。
二十メートルほどの間合いさえ破らなければ、私が立ち去るまでそこにいる。
私は、ケーン、ケーンと鳴き声を真似して挨拶をするが、
鹿から挨拶が返ってきた事は一度もない。
が、そんな事は気にせず毎夜声をかけている。
今日、ふと彼らの写真を撮ろうとカメラを持参した。
フラッシュを焚いたので鹿達は驚いたようだが、そう遠くへは逃げなかった。
写真には雄と雌の鹿が写っていた。
恋路のじゃまをして悪かったと、慣れない鹿語であやまった。
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